報告-2011年度前期研究大会

110717_1.JPG2011年度前期研究大会は、「紅河デルタ村落の農村・都市関係-ナムディンの工業区とバッコック農村社会の変容」と題して京都大学稲盛財団記念館3階中会議室において7月17日(日)13:30~17:40に開催された。

最初に柳澤雅之会員より、関西での研究大会が二回目であることの挨拶があり、続いて3名の報告者とその主題の紹介があった。

13:35から、新美達也会員による「工業区の分散配置と農村の発展-ナムディン省コックタィン合作社の就労形態の変化から-」と題した報告があった。報告の要旨は以下のようである。

21世紀初頭まで、ベトナムの工業区はビンズオン・ドンナイ省等、ベトナム東南部に約54%が集中し、これが労働環境・自然環境・社会環境の悪化をもたらした。ホーチミン市・ビンズオン・ドンナイ省は労働者の平均賃金も他地域より数割高いが労働争議も多い。

その後2007年までには工業区の分散が進み、北部紅河デルタのナムディン省でも12の工業区が計画されている。しかし、実際に稼働しているのはホアサー・ミーチュンの2区のみであり、ホアサーは約2万人・ミーチュンは千人程度の労働者を雇用している。最も大きなホアサー工業区でも業種は雑多であり、経済学的な集積は起こっていない。

ホアサー工業区の通勤圏は10kmであり、研究大会主題のコックタィン合作社は7kmなので、通勤圏に入る。

コックタィン合作社では、2009年の同合作社報告によると全労働力人口の19%が省内の工業区で働いており、同総世帯収入の6割を占めるに至っている。このうち、1995年より5年ごとの悉皆社会経済調査の対象となっているB集落では2005年から2010年の間に省外の出稼ぎ者が18人から23人に、省内の労働者が23人から141人に急増している。

2008年から09年にかけて行われた調査によると、女性労働者は繊維関係が80%で月収は男性よりやや低く、また外資系よりベトナム系企業のほうが高い離職率を持つ等の傾向が見て取れる。また、就労機会の増加に伴って、U・Iターン就職が48%に達している。

これらを検討すると、工業区の分散配置は企業・労働者双方にとってメリットがあると言い得る。「サンディー・トイヴェー(sáng đi tối về, 朝出勤し、夜帰宅する)」コミューター労働モデルは有効に働いている。

しかし、若年労働力が工業区に吸収される一方、農業従事者の高齢化が進んでおり、農業の機械化が必要であり、このためのインフラ整備が急務であろう。このことから、「サンディー・トイヴェー」モデルは現段階のみに有効なモデルであろう。

同報告に対して、1993年よりコックタィン合作社の調査を続けてきた桜井由躬雄会長より、以下に「サンディー・トイヴェー」モデルの解説があった。

同モデルは地域学が対象とする地域社会の個別性と市場経済の普遍性の対立を構造的に共存させるものであり、そうでなければ持続可能性はない。

コックタィン合作社の教育水準は、高校進学率で男性100%・女性60%に達しており、高卒者の大多数がその後高等教育あるいは職業教育機関に進学する。こうした教育熱は現金収入とは比例しないが、非農業収入を得る条件にはなっている。

企業にとっても同モデルは、宿舎等のインフラ投資を不要にしている。例えば、同合作社では2003年に労働者世帯にも水田が配分されている。

これらの収入は貯金されており、2005年調査においてはオートバイ購入が目的であったが、2009年調査においては結婚費用に充てられており、村人の真面目さが窺われる。

一方で、農業労働力の不足が目立ち始め、同モデルは今後10~20年で破綻する可能性があり、過渡的なものであろう。

これに対して、データによって農業労働力は過剰なようにも見てとれるがとの質問があり、桜井会長から、若年労働力の工業区吸収によって農業労働者の高齢化が起こっており、従って、農業労働力は不足していると考えるべきと返答があった。

また、工業区における労賃の上昇について質問があり、新美会員は2005年から09年まで平均で3~4割程度上昇したとした。

続けて、工業区勤務者の比率が2009年の合作社報告と10年B集落調査で格差があることが指摘され、桜井会長は10年のB集落調査を土台として議論を進めるべきと返答した。

更に、B集落で約3分の1を占める非農業世帯はどのような世帯かとの質問があり、新美会員は若年世帯が多いと説明した。

加えて、ナムディン省工業区等に工業区を分散配置する政策的意図はどのような社会的効果をもたらしているかとの質問があり、新美会員は輸出加工区から内需向けに転換が起こっており、雇用創出・貧困削減が政策的意図であるが、地方工業区の入居率は3割程度と苦労しており、大都市周辺工業区への出稼ぎも拡大しており、必ずしも成功していないとの見方が示された。

続いて、14:50から設楽澄子会員による「『看板』としての新型合作社-ハノイ近郊における安全野菜栽培農村の事例から-」と題された報告が行われた。報告の要旨は以下のようである。

安全野菜プロジェクト対象の2つの農村、ハノイ郊外のドンアィン県ヴァンノイ社・ザーラム県ヴァンドゥック社において、近年、野菜の播種面積が急増しているにもかかわらず、安全野菜の出荷量は2つの社で大きな差がある。安全野菜の生産と流通における2つの社の違いを、新旧合作社の組織と経営の違いに着目して説明する。

旧来の合作社と、ドイモイ政策のなかで生まれた新型合作社に関してさまざまな先行研究があり、特に新型合作社においては主任のリーデーシップが成功と失敗の鍵を握るとの説がある。

先行研究を検証するために、個々の安全野菜栽培農家がどのように合作社を「利用」しているか、という観点から研究を進めた。安全野菜とは減農薬栽培による野菜で、政府の基準によって認証される。

ヴァンノイ社の新型合作社である安全野菜合作社の一例では、構成農家の数は主任の親族に限定されて少ないが、品種や栽培法に関しては、地縁・血縁ネットワークを介して市場情報を生産へとフィードバックする機能を持つ。また、個人が合作社の「看板」を持って販路を開拓することで、仲買人を通さずに契約・販売する例が見られる。小規模経営・家族労働力によって経営は合理的であり、成功の原因は主任のリーダーシップによるものではない。

一方、ヴァンドゥック社の合作社は旧来の合作社から転換したものであり、企業と安全野菜の栽培契約を結んでいるが、経費が高く、販路が確保できず、ビジネスモデルとしては破綻している。合作社は、旧来のものとの連続性が高く、企業としてよりも行政としての意識がある。一方、私営商人による「普通の野菜」の販売はより成功している。

結論として、合作社の成功と失敗を分けるものは販路確保に成功するかどうかであり、ヴァンノイの新型合作社は、合作社という「看板」を使って個人が契約主体となれたことが、販路を確保できた要因であるといえる。

この報告に対して、安全野菜の認証と合作社の関係について質問があり、設楽会員は認証が県によって合作社の土地に対して与えられるため、実際の経営との関係はあいまいであるとの説明があった。(報告者による訂正:認証は県ではなく、正しくは市・省レベルであり、この場合はハノイ市農業農村開発局である。)

続いて、安全野菜の認証が合作社ではなくて個人にも与えられるか、安全野菜の価格は普通の野菜と比較してどの程度高価かとの質問があり、設楽会員は、制度上可能であるが、現実には合作社に与えられるとの返答があった。また県農業局は生産現場においても査察を行っており、違反が摘発される事例もあるとの解説があった。また、安全野菜の価格は3割程度高価であるとのことが示された。

また、栽培コストはヴァンノイ社のほうが高いかとの質問があり、設楽会員は両社での生産コストの厳密な比較は行っていないが、微生物肥料等のコストは同社のほうが高いとの説明があった。(報告者による訂正:ヴァンドゥック社合作社の契約栽培においては、企業指定の有機肥料使用が義務付けられており、それに基づくとヴァンドゥック社の生産コストはヴァンノイ社よりも高い)

安全野菜栽培における合作社の意義について質問があり、設楽会員はヴァンノイ社での安全野菜栽培成功は合作社の営業による。スーパーマーケットとの取引も原因だが、農民からはスーパーマーケットは取引条件が悪く、評判は悪いとの紹介があった。

更に、保育園等への販売には行政からの指導があるかとの質問があり、これに対して設楽会員は、教育訓練省からの指導があると述べた。

最後に、事実確認として合作社幹部の給与・幹部が専従職であるかどうかの質問があり、設楽会員は、幹部は専従ではなく、自らも農業に従事しており、主任の月給は60万ドン・経理の月給は30万ドンであるとのことであった。

休憩をはさんで、16:25からは柳澤雅之会員による「商売かサーヴィスか-ナムディン省コックタィン合作社のネットワーク作りと生活改善事業-」の報告があった。要旨は以下のようである。

まず、バッコック村調査の概要が説明された。コックタィン合作社は旧バッコック村を含む8つの集落(ソム)によって構成されている。本報告は、バッコック村調査をベースに、2008年から10年にかけて行われたJICAの草の根支援事業「コックタィン合作社の市場化対応」プロジェクトの成果である。

同事業は村人と共同で調査を行うものであり、合作社の市場化対応が主題であった。

第一に、同合作社はナムディン省においては希な、種用ジャガイモの栽培と保冷庫を利用した保管・販売事業を行ってきたが、ここ数年で事業の多角化と共に収入が上昇しており、これらジャガイモ栽培・保冷庫事業による収入は相対的に逓減している。この原因は合作社のジャガイモ栽培面積が5ヘクタール程度で頭打ち状態にあり、新品種の導入・栽培試験・販売ネットワークの拡大が課題である。

第二に、ジャガイモ栽培・保冷庫事業に次ぐ主要な事業として肥料・農薬といった農業資材の販売があるが、ここ10年間で販売額は3.5~8倍(物価上昇率を考慮せず)に上昇している。拡大の理由は、農業資材の販売価格の上昇に加えて、農民による農業資材投入量の拡大である。販売価格の上昇はおおむね、2倍程度である。

また、農業資材投入量の拡大には、農地での集約化が進展した可能性もある。聞き取りによれば、2003年の土地再配分で、それまで農家一戸当たりの筆数が13~14であったのが2~3に減少し、集約化が可能になったという。そこで、水稲の収量の変化をバッコック調査から検討すると、2000年に5.5トン/ha程度であったものが2010年には4.5トン/ha程度に減少していることがわかった。水田での集約化が進展しているとは考えにくく、したがって、投入量の増大は野菜栽培によるものと考えられた。

野菜の栽培面積は横ばいであり面的拡大はみられないが、販売による利益は拡大している。これに伴って肥料・農薬の投入も拡大していると考えられた。また、近年の変化として、工業区建設以降、若年農業労働力の不足が顕著になり、手間のかかる野菜販売を請け負う農家も出てきている。今後もこの傾向が拡大するだろう。

第三に、電気・水道事業である。合作社による配電設備や水道敷設などのインフラ投資が効果をあげると同時に、合作社社員による利用が増大し、これらの事業による合作社の収入が上がり始めていると考えられる。とくに電気事業はこれまで合作社の事業にとって利益を生むものではなく、むしろ、社員のための生活レベルの向上を目指した福祉的な要素の強い事業であった。しかし、生活に根差した電気や水道利用による収入が安定することは、合作社にとって、新たな恒常的収入源として重要な役割を担うと考えられる。

これら事業によって得られた合作社の利益は、道路建設・水路の改善・ゴミ処理場建設計画等、合作社内部の公共事業に向けられている。すなわち合作社は、独自の収入減を持ち、合作社内部の公共事業を通じて社員生活の向上を図っている。このことは、80年代~90年代にかけて、コメ増産によって、農民生活の向上と合作社内部の福祉活動の推進の両立を可能とした合作社の経営構造が現在も同様に継続していることを示している。

この報告に対して、水道事業について質問があり、柳澤会員は省の補助により農民の寄付を加えて2006年から給水が開始されたとの説明があった。桜井会長は、データに基づいて、同事業が2004年8月から開始され、総費用19億ドンのうち、省は7億ドン・社は1億ドン・合作社は11億ドンを負担し、合作社の一戸当たり4万ドンの寄付があり、水道の総延長は2万メートル・水道料金は1立方メートル当たり2500ドンであり、また、水道の用途は飲料水ばかりでなく、炊事・シャワー・洗濯等、生活用水全般に渡っているとの解説があった。

発表に対し、合作社以外の農業資材の購入先について質問があり、柳澤会員は合作社から離れた国道沿いの集落では市場からの購入が多いと述べた。

続いて、合作社の世代交代について質問があり、柳澤会員は、主任・副主任は2010年に再任され、1990年代初期から変化がないが、現在では30~40代の幹部も活躍しており、共同で調査を行ったのもこれら若手幹部であるとの説明があった。

稲作収量の減少は労働力不足も影響しているかとの質問があり、柳澤会員から、その可能性があることが指摘された。

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